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AuthenseIP News Letter Vol.1


はじめに


Authense弁理士法人から初めてのニュースレターをお届けします。皆様の業務に役立つ知財ニュースをお届けできるよう、取り組んでまいります。今後ともよろしくお願いいたします。


今月の内容


  • 商標管理の視点で「AFURI」商標について考える

  • ドメイン管理における商標活用:ビジネスを守るための必須対策

  • おしらせ

  • あとがき


商標管理の視点で「AFURI」商標について考える


(六本木のAuthense弁理士法人オフィス近くの「AFURI」の看板)


ネット上で、「AFURI」と「雨降/AFURI」の商標の事件が話題になっています。企業の商標管理やブランドマネジメントを長く担当し、現在は国内外の商標実務を担当している弁理士の視点から、少し、考えてみました。


1.事件の概要

時間はかかりませんので、まずは下記の2つのニュースリリースを見てください。事案の概要がよく分かります。

①吉川醸造のリリース

https://kikkawa-jozo.com/blogs/news/sosho1

②AFURIのリリース

https://afuri.com/wp/press/680

少し、整理すると、

(1)有名ラーメン店を運営する株式会社AFURIが、第33類の清酒等について、商標権を有している(第6245408号「AFURI」第33類、ほかにも登録・出願あり)。実際、多少のお酒の製造販売をしている。

(2)神奈川県伊勢原市の吉川醸造株式会社が、「雨降」の商標登録を持っている(登録第6409633号)。この「雨降」の語源は、大山=阿夫利山=雨降山 から来ている。同社は、「あふり」と読んでいる。

(3)吉川醸造の幹部が、AFURIの幹部に、電話で「雨降」の読み方を「AFURI」をローマ字表記することを伝えて、口頭でその許可を得たらしい(下記の弁護士ドットコムの記事によります)。

https://www.bengo4.com/c_1015/n_16470/

(4)吉川醸造の製品が出た後、両者で話合いを続けたが、結論が出ず、AFURIが吉川醸造を商標権侵害で提訴。

(5)これに対して、吉川醸造がリリースで反論。これに対して、AFURIもリリースを出して対抗。

ネット上では、大山=阿夫利山=雨降山に由来する「あふり」「AFURI」の表記は、本来、吉川醸造も使えるものという意見と、商標権者であるAFURIが商標権を行使するのは当然という意見があり、話題になっているようです。

弁護士や弁理士の意見も色々出ていますが、議論の方向性が定まっているようには思われません。

この問題について、商標弁理士の視点と、企業の商標管理の視点から、コメントしてみたいと思います。



2.弁理士としてのコメント

(1)漢字と平仮名(カタカナ)とアルファベット

漢字の商標と、平仮名の商標と、アルファベットの商標は、別のものです。昔は、称呼=発音=読み方が重要で、称呼が共通すれば類似という時代もありましたが、今は、同じ商品分野で、同じ称呼であるにも拘わらず、別登録になって併存している商標は、相当沢山あります。特に、漢字商標同士の場合は、外観も、意味も違いますので、その傾向は顕著です。

また、漢字で登録を取得したとしても、その読み方を、平仮名やローマ字で記載できるとは言い切れません。「阿夫利」なら「あふり」「あぶり」でしょうが、はたして、審査官は「雨降」を「あふり」と読んで、登録したのでしょうか?「うこう」「あめふ(る/り)」ではないでしょうか。「あふり」と読みたいなら、はじめから、漢字の読み方(ルビ)を入れた商標にするか、少なくとも「雨降/あふり」と二段併記にしておくべきです。J-PlatPat(商標等の記録を参照できるプラットフォーム)では、「雨降」には「あふり」の称呼もあるように記載がありましたが、本当にそうでしょうか。ちょっと無理があるような気がします。

ちなみに「ふりがな文庫」で検索すると、「雨降」の読みは次のとおりです。

①あめふり 71.4%

②あまふ 14.3%

③あめふ 14.3%

https://furigana.info/w/雨降

②あまふ、③あめふ、などは、特許庁の称呼起こしとは違いますが、「あふり」より素直です。

重要なのは、吉川醸造がどう読むのかではなく、社会がどう読むかです。「雨降」の読み方は、アンケートでもした方が良いのではないでしょうか。そして、最終的には、裁判で決めるしかない内容です。

更に、平仮名以上に、ローマ字やアルファベットは、別の商標になることがあります。「あふり」をローマ字にすると、ヘボン式では「AFURI」ですが、訓令式ローマ字や日本式ローマ字では、「AHURI」です。最近はヘボン式が多いとは思いますが、子供たちが小学校で習うのは訓令式です。「あふり」の称呼をアルファベットで表記しても、必ずしも「AFURI」になりません。「AFURI」というローマ字で表記しようというなら、吉川醸造は、はじめから、ローマ字が入った状態で、商標出願しておくべきでした。そうすると、先願の「AFURI」を引用され、おそらく拒絶されていたと思いますが、事件になることは無かったと思います。商標管理においては、事件にしなくて良いものは事件にしないことが肝要です。回避可能な事件のために、貴重な会社の時間を使ってはいけないのです。

ちなみに、アフリカは英語で「AFRICA」であり、「F」だけで「フ」と発音しており「U」がありません。このように、アルファベットの商標は綴りが重要です。称呼が同じでも、綴りが違うと外観が異なり、非類似になったりしますので、綴りには細心の注意が必要です。


商標管理では、実際に使用する商標を出願することが大原則です。標準文字(※注)は、実際に使用する商標が決まっていないときの代替手段でしかありません。実際のロゴがあれば、それを出願するのは当たり前のことで、それを怠った吉川醸造に、分があるとは思えませんでした。

現在、吉川醸造は、「雨降+AFURI(ルビ)」の商標出願をしているようです(商願2023-32269)。この出願に特許庁がどのような判断をするのかが待たれます。社会が注目しているので、この出願の担当審査官は、裁判官並みに大変そうです。


※注:出願人が商標について特別の態様での権利要求をしないときには、態様を指定せずに出願する標準文字制度というものがあります。


(2)「AFURI」の無効化は可能か?

吉川醸造は、登録商標「AFURI」を、地名のローマ字表記にすぎず一法人に独占させるべきではないとして無効である(記述的表示)と主張する無効審判請求をすることは可能です。しかし、ラーメン店の名称として既に有名になっている商標でもあり、役務「ラーメンの提供」などでは無効化は無理でしょう。

一方、商品「日本酒」でも、「大山=阿夫利山=雨降山」に由来する「AFURI」が、記述的表示であるとして、無効にできる可能性は、低いように思います。

「大山=阿夫利山=雨降山」がラーメンや日本酒と関係のある地名とも思われないですし、「AFURI‐YAMA」や「AFURI Mountain」とでも記載があるなら別ですが、「AFURI」だけですと、特定に意味のない造語と捉えるのが自然であり、無効化は、難しいのではないでしょうか。


3.企業の商標管理からのコメント
(1)周知(著名)商標への配慮

これをいうと特許庁に叱られそうですが、事実なので敢えて言います。日本の商標制度は、周知商標の保護が非常に薄い制度です。一般の商標権では、周知(著名)商標の保護が薄いので、防護標章登録制度という、別の周知(著名)商標の保護制度があるのです。

一般の商標については、商標の「類似」という概念を、実際の取引上で混同が生じるかという具体的出所混同で捉えず、審査実務がやりやすいように、一般的抽象的出所混同で捉えるためです。日本の法制度を抜本的に改善しない限り避けられないことなのですが、まず、日本の商標制度は著名商標の保護に消極的であることを、ご理解ください。

しかし、この点、特許庁や現行商標法とは矛盾するのですが、企業の商標管理としては、他人の周知(著名)商標を最大限尊重する態度が非常に重要です。人の権利を尊重しないような会社の権利は、社会や他社から尊重されるはずがありません。この点、吉川醸造は、「AFURI」の商標権を認識し、電話までしているようなので、スタートから苦しい状態だと思います。

周知(著名)商標は、商品・役務の区分を超えるものですので、周知(著名商標)であれば、登録が無い区分でも、出所混同があると考える必要があります。企業の行う商標調査は、特許事務所の行う商標調査とは異なります。特許事務所では、特許庁の審査官と同じ視点で、登録になるかならいかという視点で判断しますが、企業の行う商標調査は、実は、周知(著名)商標については、より配慮しないと事件が起きるものなのです。

場合によっては、清酒とは違う、ラーメンの提供についての商標「AFURI」が存在するだけでも、使用を中止するのが、企業の商標管理です。


(2)口約束だけではダメ

AFRUIの役員がOKを口頭で言ったという、弁護士ドットコムの記事がありました。しかし、これは、言った言わないという問題になります。やはり、知的財産権の使用許諾などは、書面で、契約書という形式で残さないといけません。

また、AFURIの常務がOKしたとありますが、その役員に知財問題について判断をする権限があるかは別問題です。常務でも、社内ルールで知財についての判断権限がないときがあります。更に、ただの一般的な感想を述べた程度では、許諾したとならないこともあります。役員といっても、知財知識の無い方も多く、その発言を鵜呑みにはできません。

また、権限のある役員が、OKをしたとしても、それには条件がついているということも多いです。例えば、「ロイヤルティの支払いは、別途お願いします」というような条件は、よくあります。結局は、書面が無いと何とも言えないことが多いのです。

きちっと、レターやemailなどで交渉記録を残し、また、然るべき商標の担当同士で話をしないと、今回のように後々、問題になります。

この点は、双方に課題があるかもしれません。


(3)知財事件をリリースする流行について

最近は、知財事件で、当事者双方がニュースリリースを出して、各々の主張を展開し、社会の支持を得て、交渉を有利に進めようという動きがあります。

最終的に締結する知財契約では、普通は、守秘義務が入っていることが通常です。あまり、争いを社会に公開したくないという思いが、特に被侵害者側にあります。しかしながら今回は、被侵害者側であるAFURIもリリースしています。世間を味方につけて、交渉を有利に進めることができるのかもしれませんが、それは相当な高等戦術であり、どの会社にも勧められるものではありません。

世間の風向きとしては、当該企業のCMに出ているタレントが好きな個人が、積極的にSNSで発信し、別の方向に進んでしまうという感じのところがあります。どう動くのか読めないので、怖いなと思いますが、知財事件では、特許庁や裁判所は、世間の風評にはそれほど影響を受けないと思いますので、安心感はあります。

リリースですが、しっかりした広報担当者がいる会社なら、リスクマネジメントとして、微妙な内容の公表はストップをかけることが多いと思います。本件も、弁護士・弁理士や社内の知財専門家にリリースを見てもらい、そのチェックを受けているのでしょうか?広報と知財の連携が必要な時代になってきているので、知財部門のOKがない文章は出してはいけません。

商標権侵害の問題は、最終的には裁判所の助けを借りて公で決着をつけるのですが、ほとんどの案件は、当事者間で秘密裡に話しあって解決するものです。それを、双方が、リリースという形式で、プロレスの場外乱闘のようにしてしまうと、ゴシップ記事になってしまい、どうしても世間の要らぬ関心を引いてしまいます。

営業の方などが、当該案件の解説記事などを読んで、自社の知財案件の対応方法の参考にするのは良いのですが、リリースが、単なるゴシップのネタになる程度ではもったいないなと思います。


4.ブランド的な視点から

日本で商標の実務をやっていると、まず区分や類似群から検討に入ります。しかし、欧米では、商品・役務よりも、標章(マーク)を優先すると聞きます。

これに関係するのですが、以前、日立製作所が、「プリウス」というパソコンを販売していました。しかし、プリウスと言えば、トヨタのハイブリッド自動車の名称です。また、松下電器(パナソニック)が、「タント」という冷蔵庫を販売していたことがありますが、タントと言えば、ダイハツの軽自動車です。

消費者は、一つの言葉(ブランド)に、一つの商品(サービス)を割り当てて認識する傾向にあります。他の商品・サービスでも、有名な商標があれば、消費者の認識のミス(誤認)を防ぐためにも、極力回避するのが良いというのは、このあたりにも、理由があります。


5.まとめ

企業の商標管理に長く携わった者からすると、上記のような点が気になりました。実は、この商標管理の考え方は、大企業も、中小企業も差がありません。中小企業のブランドでも、大企業のブランドよりも有名なブランドは沢山あります。小さなガリバーが多いのが商標の世界です。

商標管理というと、更新期限管理などの商標の事務管理を思い出す方も多いと思いますが、本当の商標管理は、各々の商標を正面から考えて、産業の発展という法目的や、出所混同の防止という商標制度の本質から、個々の商標案件について判断することなのだろうと思います。

以上

(原稿執筆にあたり、AFURIで、ゆず塩ラーメンをたべてきました。さっぱりして美味しかったです。)

2023年9月16日

弁理士 西野吉徳


ドメイン管理における商標活用:ビジネスを守るための必須対策


「きちんとしたルールが決まっていなくて・・」

ドメイン問題の相談を受けたとき、「貴社のドメイン管理は、どの部署でどのようなルールで行っていますか?」と質問すると返ってくる答えです。

皆様はどうお答えになりますか?

2023年8月、有名百貨店の「閉店セール」と称した広告をSNSに掲載するなどして客を偽サイトに誘導し、百貨店のブランド力を悪用して偽ブランド品を販売していたとみられる事件がありました。この十数年の間に閉店する百貨店が増えていたところ、その動きに乗じた詐欺行為とみられます。

2023年には東京の東急百貨店本店が閉店となっていますが、その後、偽のショッピングサイトへ誘導する広告等の存在が確認されているようです。 偽のショッピングサイトのURL中には、公式と似通ったものもあり、一般の消費者には見分けづらいということも、消費者が混同してしまう一つの要因になったかと思われます。

そこで、冒頭の質問に追加です。


「偽サイトのURLをみて、自社のドメインではないとすぐにお答えできますか?」

ドメインの管理は、「情報システム部門」が管理していたり、「知財部門」、「広報部門」が管理しているなど、会社によってどの部署で行われているかは異なるとは思いますが、そもそも管理が行われていなかったり、各部署で独自にで取っているケースもあります。

そうすると、ドメイン名の付け方にルール性がなくなり、自社のドメインなのかすぐに判断できず、各部署に問い合わせが必要となり、初動が遅れる可能性もあります。

また、ルールが定まってないと、せっかく運用してきたドメインの更新管理を忘れてしまうといった事態も発生します。


ドメイン管理は、貴社の企業イメージを守り、顧客の信頼を維持する上で非常に重要です。特にドメイン名は、企業のオンラインプレゼンスにおいて重要な要素であり、適切な管理が求められます。

あまりに紛らわしいドメインや、企業イメージを損ねるサイト、消費者が混同を生じるサイトのドメインについては、JPドメイン名紛争処理を行ってドメインの移転を行うことが一つの手段ですが、この紛争処理には、取得済みの商標を用いることが有効です(※注)。

企業イメージを守る、といった点においては、知的財産分野における商標活用・管理とドメインは似たものがあるといえるかもしれません。紛争が起こる前に、ドメイン取得のルールを策定し、「必要なドメインはあらかじめ取得する」、「定期的なドメインの監視を行い、監視結果に基づいて、必要な対策を講じる」などにより企業のブランドを守るということも、紛争の種をあらかじめ減らしておくという知的財産の管理部門が得意とする分野かと思われます。

築いてきたブランドのイメージが崩れるのは一瞬です。貴社のオンラインプレゼンスを高めるために知財の力を活用してはいかがでしょうか。

※注:JPドメイン名紛争処理における申立人の立証項目の一つとして、「登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」というものがあり、登録商標があるとこの点の立証に有利です。


2023年9月18日

弁理士 淡路里美


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