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AuthenseIP News Letter Vol.11


花王、意匠権侵害を主張!アイリスオーヤマ商品の販売差し止め請求


2024年7月、花王株式会社(以下「花王」)は、アイリスオーヤマ株式会社(以下「アイリスオーヤマ」)が販売する「モイスクル じんわりホットアイマスク」が、花王の意匠権(登録1330629号)を侵害していると主張して、東京地方裁判所に販売差し止めを求める仮処分を申し立てました。


上記意匠権に係る花王の「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」は、蒸気で目元を温めるホットアイマスクとして人気商品で、2007年から販売されており、使ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。



※ 画像出典 My Kao Mall


アイリスオーヤマの「モイスクル じんわりホットアイマスク」も、同様に目元を温めるホットアイマスクの商品です。正確な販売開始日は不明ですが、ショッピングサイトの取り扱い開始日を見ると、今年2024年から販売されているように見受けられます。


両者のデザインの比較

意匠権はデザインに関する独占的な権利であり、デッドコピー品だけでなく似通ったデザインにまで効力が及びます。

では、アイリスオーヤマのホットアイマスクは、花王の意匠権侵害に該当するほど、デザインが類似するのでしょうか?

花王の意匠権とアイリスオーヤマのアイマスクのデザインを比べてみます。




※画像出典 特許情報プラットフォーム


  • アイリスオーヤマの「モイスクル じんわりホットアイマスク」



           ※ 画像出典 アイリスオーヤマ公式ウェブサイト


両者は「目を覆う部分」と「耳掛け部分」から構成されており、基本的な構成は共通していて、一見すると似ているようにも思えます。

特に「耳掛け部分」は、全体的な形状も耳を入れる穴の形状もよく似ています。

しかし「目を覆う部分」は、花王のアイマスクが全体的に丸みを帯びた楕円形状であるのに対し、アイリスオーヤマのアイマスクは上部・下部は直線的でトラック形状となっているため、少し違う印象も受けます。


意匠法制度において、類似の判断は、製品の見た目が消費者に与える印象に基づいて行われます。

特に、消費者の注意を引く部分である「要部」に着目されます。要部が似ていれば、その意匠は類似していると判断され得ます。

そして全体的な「美感」も重要ですので、たとえ一部が異なっていても、全体として消費者に与える印象が似ていれば、意匠が類似であるとみなされる可能性もあります。

また、過去の「公知意匠」(既に知られているデザイン)との比較も行われます。その意匠権がどれだけ独自性を持っているかも、類否判断の重要なポイントとなります。

これらの要素を総合的に考慮して意匠の類似が判断されますので、花王の意匠権侵害の主張が、東京地方裁判所において認められるのかは、まだ予測がつかないところではあります。


意匠権は戦略的に取得すべき

上記の通り、意匠の類似判断は様々な要素に基づきケースバイケースとはなるため、確実な予測がつくものではありません。独自のデザインを創作した際には、手厚い権利保護のために、1つのデザインだけでなく、想定されるバリエーションも意匠出願するなど、戦略的に出願を行うことが望ましいと言えます。

花王は、今回の意匠権のほかにも、ホットアイマスクに関して複数の意匠権を保有していますので、参考までに紹介します。


今回花王が権利主張している意匠権は、ホットアイマスク全体の意匠ですが(登録1330629号)

一方で花王は、ホットアイマスクにおいて、耳掛け部分の穴の形状は限定しないような部分意匠も登録しています。(登録1341017号)



            ※画像出典 特許情報プラットフォーム


実線で表された部分が意匠登録を受けている部分です。耳掛け部分における耳を入れる穴の形状は点線で示されていますので、この穴の形状は意匠権の範囲には含まれません。

仮に他者が、全体的な外形が似ているものの、耳掛け部分の穴の形状が異なるホットアイマスクを販売している、という場合には、こちらの意匠権を主張することも考えられるでしょう。


また花王は、目を覆う部分に模様が入ったホットアイマスクの意匠も登録しています。(登録1517659号)

             ※画像出典 特許情報プラットフォーム


なお、こちらの意匠権の方が、模様は除外して、形状だけに着目した場合には、アイリスオーヤマのホットアイマスクの形状と似ているようにも見受けられます。


このように花王は、ホットアイマスクについて、様々な観点で意匠権を登録して権利保護を図っているのが分かります。


まとめ

新製品の販売前は忙しく、知的財産権のことまで頭が回らなかった、、といったお声を聞くこともありますが、後から問題になって損害が大きくなってしまう可能性もあります。

新製品について、できれば時間的な余裕をもって、他者の権利侵害にあたらないように先行権利調査を行っておくこと、そして自社の独自のデザインが他社に模倣されないように発売前には意匠権の取得を行っておくこと、をおすすめします。

花王の意匠権侵害に関する訴訟は、意匠権の重要性を改めて浮き彫りにしました。この事件の今後の展開に、引き続き着目していきたいと思います。



2024年8月26日

弁理士 松下 智子












花王、意匠権侵害を主張!アイリスオーヤマ商品の販売差し止め請求

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